2022/3/21
VOL.18 
“エディブルスクールヤード”ってなに?
~学校菜園で変わる子どもたち

エディブル・スクールヤード(直訳すると「食べられる校庭」)と呼ばれる教育プログラムがあります。校庭の一角に菜園をつくり、教師・生徒・保護者、時には地域の人々も参加して、共に農産物を栽培・収穫し、皆で調理して食べることを授業の一環として行うプロジェクトです。一連の体験を通して命の繋がりを学び、自然を敬い、食を心から楽しみ、エコロジーを学んでいくことを目的としています。

最初の提唱者は、アメリカ初のオーガニック・レストラン「シェ・パニーズ」を作ったアリス・ウォータース。背景には、人種差別・いじめ・経済格差・児童犯罪・子ども達の肥満や糖尿病など、90年代の学校で発生していた様々な問題がありました。添加物いっぱいのジャンクフードで食事を済ませ、甘い飲料を水代わりに飲み続ける子どもたちを見て危機感を抱いた彼女は、「子どもが荒れる原因は食にあるのではないか?」と疑問を投げかけたのです。そして、家庭だけではなく社会全体で食の教育を取り入れていくべきではないかと新聞記事で問いかけました。

これに賛同したのが、カリフォルニア州バークレーにある公立校、マーティン・ルサー・キングJr.中学校の校長でした。様々な人種の生徒が1,000人ほど通う学校で、校内では22か国もの言語が飛び交う複雑な環境もあってか、互いの文化の違いや相互理解の不足による争いも多く、多様な生徒たちをどう1つにまとめるかが大きな課題だったといいます。

まずは、校内の駐車場だった場所に、教師・生徒・地域住民たちが力を合わせて菜園を作り、「エディブルスクールヤード」と名づけました。生徒たちは、地元産の健康的な有機食材を学校給食とつなぎ、食物を共に育て、調理し、食卓を囲むという経験を重ねる中で、命の繋がりを学び、持続可能な生き方・エコロジーを理解する知性・自然を愛する情感などを身に着けていきました。その結果、スタートからわずか5年で校内の多くの問題が解消し、生徒同士が互いに協力し合う校風が生まれることとなり、その成果が世界中から注目されるようになったのです。1995年にスタートしたこの取り組みは、2021年現在、米国本土53州、米国外では75ヵ国にまで広がり、多くの子どもたちに影響を与えています。発祥の地であるバークレー市では、すべての公立小・中学校に菜園があり、食を学ぶ授業が必修科目になっているのだとか。

エディブルスクールヤードのプログラムでは「ガーデン」と「キッチン」の授業があり、ガーデンでは土作り・種まき・苗づくり・有機農法での栽培・収穫を行い、キッチンでは作物の背景にある食文化を尊重しながら、収穫した作物を調理し、共に食卓を囲んで味わいます。ガーデンでは汗を流しながら農作業に一生懸命の子もいれば、花やハーブを摘んでティアラやリースを作る子、みんなと少し離れて一人でニワトリの世話をしている子も。キッチンでは、調理を率先してやる子、盛り付けのセンスがある子、片付けが上手な子など、それぞれに得意なことを見つけて参加するよう先生が導きます。子どもたちの一人ひとりが、それぞれのキャラクターやペースに合わせて参加することが許されており、それが、“自分の居場所”を作ることになり、「自分はここにいていいんだ」という自己肯定感に繋がっているようです。放課後になると、家に帰っても1人で過ごすしかない子どもたちがガーデンへやってきて、先生の手伝いをしながら、自分のことをぽつりぽつりと話し出したりもするとのこと。

日本においても2005年に食育基本法が施行されて以来、国をあげて食育に力を入れようとしていますが、現場となる学校では暗中模索や試行錯誤が続いている様子。そんな中で、エディブルスクールヤード・ジャパンのモデル校として、2014年より東京都多摩市立愛和小学校において授業と放課後活動がスタートし、その後、沖縄市立島袋小学校、倉敷市立琴浦北小学校、横浜市立太尾小学校などがこれに続きました。エディブルスクールヤードのトレーニングを受けた指導者による活動も、各地で少しずつ動き始めています。この取り組みが日本に根付き、“育てること”・“調理すること”・“食べること”を通して、子どもたちの心と身体がすこやかに育まれていくことに期待したいですね。

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