Organic な「もの」「こと」「ひと」
  1. 国産有機
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    活動事例集

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  2. 京都府京都市

    株式会社坂ノ途中

    代表取締役 小野邦彦さん
    【坂ノ途中とは】
    「坂ノ途中って 何をする会社?」という問いに簡単に答えるのは難しいことです。主に何をしているかというと、「webショップでの販売や個人宅配」、「食料品店や飲食店への卸売り」、「店舗での小売り」、そして「新規就農者サポート」等が挙げられますが、それはたぶん、坂ノ途中らしい説明ではありません。代表の小野邦彦さん曰く、「新規就農者を中心とした提携生産者が栽培した農産物を販売したり、環境負荷の小さな農業を広げるためのあれこれを、みんなで試行錯誤しながらやってる会社」ということになります。設立は2009年7月。1983年生まれの小野さんが20代半ばで起業しました。

“分かりやすさ”に逃げないこと。
分かりやすくしてしまうと、こぼれていくものがある。
僕らは、答えがないことに向き合っている組織なんです。

100年先もつづく農業を目指し、新規就農者をサポート
坂ノ途中が目指しているのは、環境負荷の小さな農業に取り組む人たちを増やし、“100年先もつづく農業”の形を作り、持続可能な社会にたどり着くこと。提携農家は西日本を中心に約300軒、その約9割が新規就農者です。日本のオーガニック業界には、業界関係者ならば誰もが知っているスター生産者が何人かいらっしゃって、ちょっと高級なスーパーやこだわり系の食料品店では彼らの農産物や農産加工品が一種のブランド品のように取り扱われていたりもします。そんな中、農業を始めて間もない人たちと連携して事業が成り立っているというのは非常に稀なケースであり、坂ノ途中という会社の一番の特徴と言えるかもしれません。
「坂ノ途中」という社名の由来
就農希望者の多くは、有機農業や自然栽培などのように農薬や化学肥料への依存度を減らした農業を志しています。けれども、彼らの中で実際に就農までたどり着くのはごく一部。営農を継続できるのはさらにその中の一握りです。その大きな理由は、売り先がないこと。「環境負荷が小さい農業に取り組もうと考えている人たちは、基本的にとても勉強熱心だし、経験不足を補うために他の生産者を訪ね歩いたりもする。そしてなにより、本当によく働きます。だから、新規就農者とはいえ彼らはかなりの知識や技術を持っている。そういう生産者が栽培した農産物を仕入れて販売することが、坂ノ途中の主な業務です。」(小野さん)  

農業の担い手が減り、耕作放棄地は増えているはずなのに、実績のない新規就農者が借りることのできる農地は、日当たりや水はけが悪いなど条件の良くないケースが少なくありません。その結果、収穫量が少なくなったり不安定になったりして、既存の流通ルートからは避けられてしまいがちです。そういった場合でも、野菜がちゃんと美味しければ、坂ノ途中は取り扱います。新規就農した人たちが、環境負荷の小さな農業を始めやすい、そして続けやすい仕組み。それを作ることが、“100年先もつづく農業”を実現する最短ルートだと考えているからです。「坂ノ途中」という社名には、“成長途上にある就農希望者や新規就農者の良きパートナーでありたい”という願いが込められています。
有機JASも非JASも両方広げていく
先に述べたように、坂ノ途中が広げようとしているのは、“環境負荷の小さな農業”、“100年先もつづく農業”です。だから、有機JAS認証を取得しているか、いわゆる“非JAS”(有機JAS認証の条件を満たす栽培方法ではあるが認証を受けていないもの)であるかは、特に区別していません。「認証マークを取ること自体を目的とするのは、僕らが考えている農業の在り方ではないんです。有機JAS認証は、“そういう農業を広げていくための販売戦略に役立つツール”として捉えていこうねと、スタッフや生産者には話しています」(小野さん)
“すごくいっぱい説明する”会社
「日本で有機農業がなかなか広がらなかった理由の1つとして、説明不足があると思うんです。流通業界の先輩達が、消費者にきちんと説明することを端折ってしまったんですね。野菜は生きもので、ブレるものなんだということ。工業製品のようにいつも同じ品質のものを安定して生産することは出来ないのだということ。坂ノ途中は、そういうことを、“すごくいっぱい説明している会社”なんです。たとえば、夏の終わりに唐辛子に黒ずみが出てくるのはよくある現象なんですよ。だから、黒ずんできたからといって仕入れ価格や販売価格を安くするなんてことはせず、従来通りの値段を変えない。そういうようなことを理解していただくために、“すごくいっぱい説明する”んです」(小野さん)
定期宅配の継続率、96%!
主力商品のひとつに定期宅配(旬の野菜の詰合せ)があります。定番の野菜から珍しい西洋野菜や伝統野菜まで幅広く野菜を味わっていただけるよう、スタッフと農家さんが相談しながらセットの内容を決定しているとのこと。初夏にはお茶の新芽、夏には食用ホオズキ、秋にはサツマイモのつるなど、“ちょびっとしかない、だけどおいしい”ものがおまけとして入る時もあるそうです。…とはいえ、人によっては苦手な野菜や食べ慣れない野菜が入ってくることも。それでも、野菜セットを定期購入した方々の“翌月継続率”はなんと96%にも達しているのだとか。畑のこと、季節やお天気のこと、旬のことを、“すごくいっぱい説明している”からこその数字なのでしょう。
常に考え続ける組織で
「腕利きのスター生産者だけが経済的に自立できるのではなく、真面目に努力し研鑽を積むすべての生産者が報われる世の中にしたい。そうすることによって地域の環境が守られ、持続可能な社会が実現していくようにしたい。じゃあ、そのためにどうすればいいのか? …僕らは、明確な答えがないことに向き合っている組織なんです。だから、よそ見をせず、そして分かりやすさに逃げず、考え続けることが大事だと思っています。分かりやすくしてしまうと、おそらく、こぼれていくものがあるから。そして、考え抜いたことを、押しつけがましくなく、楽しそうに伝えていきたい。」と話す小野さん。その言葉と声のトーンに、想いと経済、柔と硬のバランスの良さを見たような気がしました。
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