“有機”を、とことん極める
1950年に養鶏を始め、1989年には平飼い放牧を開始。2002年、ドイツに本部を置く有機農業運動の世界的組織であるIFOAM(国際有機農業運動連盟)の基準にのっとり、日本で初めてのオーガニック養鶏に着手しました。当時はまだ、採卵鶏における有機JAS認証の基準や仕組みが出来ていなかったため、「“自称有機”を脱却して、大手を振ってオーガニック卵と名乗りたい」と、向山茂徳さん(現会長)は考えたのです。その後、農林水産省は茂徳さんと連携して有機JASの基準を策定。2007年、黒富士農場がいち早く認証を取得したことは言うまでもありません。「当初は有機の卵だと言っても全然売れなくて赤字が続いたんです。なんとか売れるようになってきたのは、ここ2~3年。会長は“日本で初めて”が大好きなんですが、時代とマッチしていなかったんでしょうねぇ(笑)」と一輝さんは冗談ぽく言いますが、取材中の言葉の端々から、実は“日本のオーガニック養鶏の父”的な存在であるお父様のことを尊敬していらっしゃることが見て取れました。受け継いだDNAのせいでしょうか、2020年12月には“日本で初めて”の「有機JAS認証バウムクーヘン」を自社加工場で誕生させたとのこと。「有機畜産物加工品は欧米諸国にはたくさんあるのに、日本にはほとんどない。だから次世代の子ども達のためにもどうしても作って残したかったんです」そんな想いで加工食品の開発にも積極的に取り組んでいます。
餌や水へのこだわり
一般的な鶏の飼料には大豆やトウモロコシがよく使われますが、この2品目は世界の生産量の90%以上が遺伝子組換え種子によって栽培されています。虫が付きにくく、除草剤に対する抵抗力をもっており、低コストで量産できるため、爆発的に増え続けているのですが、安全性に疑問を感じるという声も少なくありません。黒富士農場では遺伝子組換え種子を用いた飼料は一切使わず、海外の提携農場から有機大豆と有機トウモロコシを輸入し、国内の有機認定工場で有機配合飼料に加工しています。そしてもう1つのこだわりは、水。卵にとって水はとても大事なもので、卵白に至っては約89%が水分と言われています。農場近辺の湧水はミネラルに富んでいて味も良く、それが黒富士農場の卵の美味しさに繋がっているとのこと。汲み上げてろ過した水を、鶏たちも農場スタッフも飲んでおり、毎年水質検査を実施しているそうです。
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鶏も人もhappyに ~アニマルウェルフェアのこと
「本当においしい卵は、幸せな鶏から生まれる。」それが黒富士農場のモットー。鶏たちの健康をサポートするべく、2006年からは山梨大学生命環境工学部と共同で発酵飼料の研究を続けています。「鶏たちが心からのびのびと元気に過ごせなければ、おいしい卵はできません。オーガニックを追求する中で、アニマルウェルフェア(動物福祉)は切っても切れないものだと分かりました」という一輝さんは、「AWFCJ(アニマルウェルフェアフードコミュニティージャパン)」の設立にも関わり、安全で人の健康に寄与する「高福祉品質(High Welfare Quality)」な食品の普及に尽力しています。「同時に、現場のスタッフが忙しすぎてもいけません。生きものの世話は365日休みがありませんから、鶏の数を増やすのではなく、加工食品の開発や、直売所の運営、ヒビや傷が入った卵の有効利用など、多方面から経営を支えて、鶏にも人にも無理のない環境を整えていきたいです」 将来的には鶏の数を今の半分程度にまで減らす計画があるそうで、規模の拡大ばかりを目指すのではないところに、黒富士農場の有機的な体質が見えたような気がしました。
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